徒然に.

創価学会について思うことを書く予定です.

軽減税率は必要か?

創価学会を支持母体とする公明党が消費税増税に伴い,いわゆる「軽減税率」の導入をかねてから主張してきたことは周知の事実である.2012年8月の「消費税率引き上げ法*1」以来,軽減税率は急速に注目を集め,その政策は国民の多くから強い支持を得ている*2

軽減税率導入の最大の目的は消費税の逆進性緩和である.無論,この目的がよりよく達成できるのであれば万々歳なのだが,軽減税率はアカデミアにおいて常識といってよいほどに評判が悪い.軽減税率を政争の具とされることに危機感を抱いてか,学者・研究者の有志らが軽減税率の導入に懸念を表明するために声明まで出している*3

軽減税率の導入に対する批判をいまさら論じることは少しばからしくも感じるが,国民に根強い人気を博しているのも事実であるし,今一度それを整理することも許されるだろう*4.それに,これらの批判があるから軽減税率は絶対的に悪であると即断することも難しいかもしれない.軽減税率の導入支持者の論理も考えつつ,本政策のエッセンスを総合的にとらえたいと思う.

軽減税率導入への批判

軽減税率導入に対しては主に以下の点が批判されている.

  1. 高所得者優遇
  2. ラムゼイ・ルールに反する課税による非効率性
  3. 適用する財の範囲の線引きの困難性
  4. ロビー活動による社会厚生水準の低下
  5. 徴税コストの増加
  6. 高付加価値化の阻害

とりわけ,1は軽減税率の目的である所得再分配としての機能が低いことの指摘であり,逆進性緩和の政策として致命的である(例えば,大竹(2015)*5).また,効率性と公平性のトレード・オフともとれるが,最適課税論の観点からは価格変化に対して需要変化の小さい必需品への課税が効率的であるから,2の非効率性は消費税増税の目的とする税収増加を相殺する方向に働く.3における客観的な財選別の難しさは,政治経済学的なメカニズムによって軽減税率の適用範囲が決定されることを示唆しており,そのロビー活動のために投入される資源は無駄である(4).また,IMFからの指摘*6が有名であるが,複数税率はその複雑さから一般に事務的・行政的コストを増大させる(5).6は,複数税率が生産者の利潤最大化行動の帰結として財の質を軽減税率適用範囲(必需品)の水準まで低下させることが考えられるという指摘である(例えば,佐藤(2014)*7).

これらの批判は軽減税率が,大学で財政学の講義を聴講したことがあるなら知っているはずの,「租税の原則」である公平性*8・中立性・簡素性のすべてに反するものであり,確かに一見して具合の悪い税制のようにみえる.軽減税率の必要性を主張する公明党はこれらの懸念事項をどのようにとらえているのだろうか.

公明党の主張

2015年12月20日(日)付の公明新聞*9がわかりやすい.公明党は軽減税率の導入について「Q1なぜ軽減税率を導入するのか」において以下のように述べている.

消費税は、商品やサービスを購入する際、所得に関係なく、すべて同じ税率がかかります。その結果、所得が低い人ほど、税負担が重くなる「逆進性」の問題が生じ、買い物のたびに税の負担を感じる「痛税感」を伴います。...(中略)...これらを緩和する対策として、軽減税率が最も優れています。...(中略)...低所得者に直接給付する制度が望ましいとする意見もあります。...(中略)...実際の消費支出とは関係なく給付が行われるため、消費税の痛税感の緩和には全くつながりません。

まず,既述のように逆進性緩和の政策として軽減税率は望ましくなく,まして「これらを緩和する対策として、軽減税率が最も優れてい」るとは到底言えない.そのことを踏まえると公明党に残された論理は「痛税感」の緩和である.確かに,軽減税率は必需品の購入と同時にその効果を発揮するから,後述の「給付型」の政策に比べて痛税感の緩和が期待できる.但し,実際的な所得移転額よりも「感」を優先させることは,極めて政治的ではないであろうか.

また,

諸外国でも消費税(付加価値税)を導入している国の多くで軽減税率が採用されており、食料品への適用は、「世界の常識」です

とも述べられているが,これは時系列でみると正しくないかもしれない.Ebrill et al.(2001)*10では1990年以降,複数税率導入国が単一税率のそれに比較して大きく減少していることが指摘されており,先進的な複数税率の導入国の「失敗」に見習って世界各国は複数税率の導入を敬遠していると考えられる(小黒(2013)*11,中田(2015)*12).ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・マーリーズが中心となってまとめた2010年の『マーリーズ・レビュー』においても,単一税率の導入と後述の「給付付き税額控除」による逆進性緩和政策が提案されている.

徴税コストについては,「Q6中小企業の事務負担が増える」において

事業者の皆さまには、消費税を標準税率と軽減税率に立て分けた納税事務をお願いすることになりますが、できる限り負担を軽くするため、当面は「簡素な経理方式」を採用した上で、中小事業者には特例を認めることにしました。

とある.このことについて,いわゆる「益税」の観点から早急にインボイス導入の整備を行うことが指摘されており,負担軽減のためだからといって正当化できる話ではないはずである(佐藤(2015)*13,諸富(2015)*14).

代替案

経済学者の多くは軽減税率に代わって「給付つき税額控除」を推奨している.石田(2015)*15

給付付き税額控除制度は,社会保障の制度と所得税の制度とを組み合わせたものであり,複数税率化と比較すると,納税・徴税コストの問題が少なく,税率区分の困難さも回避することができる。所得への給付なので,家計の予算制約条件付き効用最大化の解に影響を与えず,家計の最適な財の組合せからは中立的である。

と述べており,また,軽減税率の最大の難点であった「高所得者優遇」を克服し得るという意味で魅力的である.一方で,松渕(2014)*16の指摘のように

  • 所得の正確な把握が必要
  • 低所得ではあるが資産の多い人にも恩恵が及ぶ

という点が問題である.2015年11月6日(金)付の公明新聞*17では,公明党の山口代表が

(軽減税率の有効性について)申請主義の欠点を補い、商品購入時に負担軽減の効果が納税者に100%及ぶことでは圧倒的に優れている。「高所得者にも恩恵が及ぶ」との指摘があるが、所得水準から見た軽減額の効果は、所得の低い人ほど高い。この視点で見ることが重要だ。欧米などは、こうした効果を考えた上で軽減税率を導入している。

と述べている.確かに,「申請主義」による消費者のコスト増加によって「給付型」による申請率が6,7割に留まる例が確認されている(諸富(2015) *18).

しかしながら,軽減税率が逆進性緩和の政策として総合的に優れているとする知識人は残念ながら少ないように思われる.みずほ総合研究所(2015)*19

...こうしたことから,消費税の逆進性対策は軽減税率とは異なる方法で行われるべきと考えられる。

としており,他の3つの代替的な政策といわゆる「財務省案」について論じている.

 

長々と軽減税率導入に関する要所を書き記したつもりであるが,果たして軽減税率は本当に必要なのであろうか?日曜の参院選での争点はいくつもあるが,投票結果・民意をもってして判断したい.

*1:社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案.

*2:2015年10月23~25日における日本経済新聞社およびテレビ東京による世論調査では,軽減税率について74%が「必要だ」と回答している.軽減税率「必要」74% 本社世論調査、内閣支持率41% :日本経済新聞

*3:声明の賛同者である学者・研究者等有志は実に60名を超えている.軽減税率の導入を懸念するアカデミア有志による声明-思うこと、考えること

*4:石田(2015) CiNii 論文 -  消費税の複数税率に関する租税原則論的接近 は複数税率の長所・短所とその代替案について30を超える文献を引用し,メタ的な考察を行っている.

*5:軽減税率は高所得者が得するバラマキ策 WEDGE Infinity(ウェッジ)

*6:IMF、消費税「最低15%必要」 軽減税率はコスト増大と指摘 :日本経済新聞

*7:佐藤主光(2014)「(3)消費税の逆進性対策」『消費税率引き上げと低所得者対策に関する中間報告書』日本スーパーマーケット協会

*8:軽減税率が公平性をviolateすることについて詳しく記していなかったが,公平性には水平的公平性,垂直的公平性,世代間の公平性が考えられる.軽減税率は,逆進性緩和の効果は弱くとも垂直的公平性の担保を意図するものであるからこの点は大きく問題ではないだろう.一方で水平的公平性の観点から言えば,軽減税率の下では同じ所得額の消費者の税負担がその消費バスケットに依存して異なるために当該公平性は満たされていないということになる.世代間の公平性は,世代間の消費構造を詳細に分析する必要があるが,均一税率に限らず複合税率ともに概ね満たされていると考えられる.

*9:軽減税率 理解のために | ニュース | 公明党

*10: Liam P. Ebrill ; Michael Keen ; Victoria P. Perry eds.(2001)"The Modern VAT," IM F.

*11:軽減税率は世界の潮流でない(小黒一正) - 個人 - Yahoo!ニュース

*12:「軽減税率は先進国の常識」の大ウソ! – アゴラ

*13:消費税軽減税率の視点(上) 導入のコスト「見える化」を 佐藤主光 一橋大学教授 :日本経済新聞

*14:消費税軽減税率の視点(下) 税額票の導入が不可欠 諸富徹 京都大学教授 :日本経済新聞

*15:CiNii 論文 -  消費税の複数税率に関する租税原則論的接近

*16:松渕秀和(2014)「消費税増税低所得者対策―「軽減税率」と「給付付き税額控除」―」『あきた経済』第423号.

*17:軽減税率は「給付」に勝る | ニュース | 公明党

*18:消費税軽減税率の視点(下) 税額票の導入が不可欠 諸富徹 京都大学教授 :日本経済新聞

*19:消費税の設計シリーズ(8)~日本型軽減税率制度~:みずほインサイト (みずほ総合研究所)

ブックレビュー:玉野(2008)『創価学会の研究』

今回は玉野氏の著作創価学会の研究』*1について簡単に紹介したい.

著者について

著者の玉野氏は首都大学東京人文科学研究科に所属する社会学分野の教授である.『東京のローカル・コミュニティ』*2という著書の執筆に際して創価学会を取りあげ,それを機に出版社からのすすめで『創価学会の研究』を著した*3.彼は創価学会員ではないが,第三文明社など創価学会系列の出版社へいくつかの寄稿を行っている.

本書の構成

本書は5つの章から成っている.

第1章「学会員たちの信仰生活」では,主に会員の信仰生活をいくつかの事例も交えながら紹介している.また,会員の宗教活動を「幸せにするシステム」という観点から捉え論じている.

第2章「創価学会の基礎知識」では,創価学会の歴史を概観した後に,その宗教・仏教的背景,組織体制,政治との関係性,およびマス・メディアや世間からの扱いについて述べられている.

第3章「創価学会についての研究」では,時系列にいままでの創価学会を対象とした研究についてまとめられている.

第4章「創価学会の変化」では,会員数の変化要因を日蓮正宗との分離,自公連立政権の実現などに求め,最後に学会員の社会的地位の上昇について記されている.

第5章「これからの創価学会」では,自民党との対比を中心に創価学会の支持層とその未来について考察されている.

本書の特徴

まず,創価学会に関連する書物に扇動的なものが多い中で*4,冷静で中立的な記述に努めようとしている点が特徴的である.しかし,何といっても本書の最大の特徴は,そのタイトルでもある「創価学会の研究」レビュー(第3章)であろう.本章では,海外のものも含め,先行研究を12紹介している.中でも,ホワイト(1971)*5による社会学的研究は最高峰と位置付けられており,独自調査による統計分析や池田大作氏本人への面接調査を含む大規模なもので興味深い.1970年代以降,創価学会の研究はほとんどなされておらず,またその方法も社会学的な手法に限定されているようである.

第1章の「幸せにするシステム」とは,創価学会の組織的機能と会員個人の勤行・唱題,折伏および教学研鑽といった宗教活動との相互作用の合理的側面についての言及である.比喩表現が多く解釈の難しい仏教的な考察を敢えて排し,実際に何が行われておりそれがどのように機能しているかという実証的な視点に立脚する著者の姿勢と鋭い観察眼がうかがえる極めて価値的な章である.第4章,第5章は政治的な議論にほぼ終始しており,とりわけ第5章の「これからの創価学会」において今後の創価学会に必要とされることは何であるかという視点が欠けている点は残念である*6

創価学会の研究」

幸せを達成するための重要な要素の1つとして,宗教を指摘する文献が増えてきている*7.しかし,必ずしもそのメカニズムは明らかではなく,将来的には単なる宗教というブラックボックスから「幸福」の寄与に有効な仕組みを抽出し,我々の日常にうまく取り入れていく必要があるだろう.創価学会は1970年代までに急激に会員数を増加させ,現在は192カ国地域にまでその勢力を拡大している.その過程で実践された「幸せにするシステム」は果たして本当に機能しているのか,その外的妥当性はどの程度なのかを理論・実証の双方から明らかにする「創価学会の研究」が今後強く望まれるだろう.

*1:玉野和志(2008)『創価学会の研究』講談社現代新書

*2:玉野和志(2005)『東京のローカル・コミュニティ―ある町の物語一九〇〇‐八〇』東京大学出版会

*3:玉野(2008)のp.206を参照

*4:第三者が執筆した創価学会に関係する書籍のうち実際にどの程度の割合が扇動的なものであり,また扇動的であると断定するための基準は何かということを私は知らないので「扇動的なものが多い」という表現は私の妄想でしかない.

*5:J.W.ホワイト,宗教社会学研究会訳(1971)『創価学会レポート』雄渾社.

*6:ある創価学会の中心的な思想が現状の日本において重要な役割を果たすかどうかといった問いが投げかけられているが(玉野(2008)のpp.204-205)明示的にその答えは掲示されていない.

*7:例えば, Andrew Clark and Orsolya Lelkes(2009)"Let us pray: religious interactions in life satisfaction,"Paris School of Economics Woking Papers.

題目は何時間唱えればよいのか?

前回のエントリ(題目)では,創価学会員の主要な宗教活動の一つである題目に焦点を当てた.これを踏まえて,今回は題目を唱える時間がどのようにして決定されるのかを数学的に表現してみたい.

数学的表現

ある創価学会員の効用Uを消費量c,余暇量lの関数として以下のように表す.

U=U(c, l)

但し,

 c \gt 0, l \gt 0, \frac{\partial U(c,l)}{\partial c} \gt 0, \frac{\partial U(c,l)}{\partial l} \gt 0,

 \forall c \ge c^{'},\forall l, U(c,l) \ge U(c^{'},l),  

 \forall l \ge l^{'},\forall c, U(c,l) \ge U(c,l^{'})

である.また,選好の凸性を保証するため

 \frac{\partial^2 U(c,l)}{\partial c^2} \lt 0, \frac{\partial^2 U(c,l)}{\partial l^2} \lt 0

を仮定する.

ここで題目を唱える時間を題目量a (\ge 0)と定義し,彼は題目を唱えることそのものから効用を得ることはないとしよう.消費財価格をp,賃金率をw,労働量をLとすれば,彼の直面する効用最大化問題は以下となる.

 \max U(c,l)

 s.t. pc = wL

いま,彼の時間賦存量hは外生的に与えられるものとし,hは労働,余暇,題目に全て使い果たされることを想定する,つまり彼に

 h = L + l + a

なる制約を課せば,効用最大化問題は以下のように書き直せる*1

 \max U(c,l)

 s.t. pc + wl + wa = wh

ここで,題目量を増加させるに従い,彼は彼の生産性が向上し,その結果彼の賃金率は上昇することを信じていると仮定しよう.即ち,彼の主観的賃金率wは題目量aの増加関数であり,

 w = w(a), \frac{\partial w(a)}{\partial a} \ge 0

であることを仮定する*2

ラグランジュアン \mathcal{L} (c,l,a,\lambda)

 \mathcal{L} (c,l,a,\lambda) = U(c,l) + \lambda [wh - (pc + wl + wa) ]

とすれば,効用最大化の一階の条件(FOC)は以下となる.

 FOC:

 \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial c} = \frac{\partial U}{\partial c} - \lambda p = 0,

 \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial l} = \frac{\partial U}{\partial l} - \lambda w = 0,

 \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial a} = \lambda [ \frac{\partial w}{\partial a} H - \frac{\partial w}{\partial a} l - (\frac{\partial w}{\partial a} a + w(a)) ] = 0,

 \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \lambda} = wh - (pc + wl + wa) = 0

但し, \lambdaラグランジュ乗数であり, \lambda \ge 0である.

消費と余暇の限界代替率をMRSとすれば,FOCの第1式,第2式から

MRS(c,l) = \frac{w(a)}{p}

である.また,FOCの第3式を書き換えると*3

 \frac{\partial w(a)}{\partial a} (H - l - a) = w

 \Leftrightarrow \frac{\partial w(a)}{\partial a} L = w

 \Leftrightarrow \frac{\partial w(a)}{\partial a} \frac{a}{w(a)} = \frac{a}{L}

 \Leftrightarrow \eta (a) = \frac{a}{L}

となる.但し, \eta (a)賃金率の題目弾力性と定義され,ここでは

 \eta (a) \ge 0

が想定されている.

考察

まずはじめに,題目量の増加は予算線をどのように変化させるだろうか.aを外生変数とみなし,縦軸にc,横軸に lをとったデカルト座標を考えると,予算線の縦軸切片は\frac{w(a)*(h-a)}{p},横軸切片は h-aである.aの限界的な増加はh-aを減少させるので,予算線の横軸切片は題目量の増加とともに減少する.このことは,彼の時間賦存量,余暇量,および題目量の機会費用が同一の主観的賃金率wによって評価されているため,題目量の増加が余暇量の利用可能性を減少させているとシンプルに解釈できる.一方で,縦軸切片をa偏微分すると,

\frac{\partial}{\partial a} (\frac{w(a)*(h-a)}{p}) = \frac{1}{p} ( \frac{\partial w(a)}{\partial a} (h-a) - w(a))

である.FOCの第3式から

 \frac{\partial w(a)}{\partial a} (H - a) - w = \frac{\partial w(a)}{\partial a} l \gt 0

であるから,彼の最適題目量の決定を考慮すると,予算線は縦軸切片を押し上げる方向に変化することがわかる.このことは,題目による消費財購入可能数量の増加が機会費用の増加を凌駕することを意味する.

次に,最も重要な等式はFOCの第三式より導かれた,

 \eta (a) = \frac{a}{L},\eta (a) \ge 0

である.まず,この等式の意味することは,題目量と労働量の比が賃金の価格弾力性と等しくなるように決定されるということである.したがって,もし彼が彼の題目量の1%の増加が賃金率を全く上昇させないと考えるなら,\eta (a) = 0 \rightarrow a^* = 0となり,当然彼は題目を唱えないだろう.一方で,少しでも題目の効果が期待されるなら,彼の最適題目量はa^* \gt 0となる.

もし彼の賃金の題目弾力性が題目量の増加に伴い減少していくのであれば,

 \frac{\partial \eta (a)}{\partial a} \lt 0 \rightarrow \frac{\partial}{\partial a} (\frac{a}{L(a)}) \lt 0

であるから,題目量の増加に伴い彼の労働時間に対する題目量は減少する.

また,一般に

 0 \lt \eta \lt 1 \rightarrow 0 \lt \frac{a}{L} \lt 1

であると考えられるから,多くの人々の題目量が労働時間に比較して短いであろうことも頷ける.

用例

仮想的な創価学会の労働量,余暇量,題目量を与えることで彼の主観的な題目のメリットを逆算してみたい.いま,彼は時給換算で2,000円の仕事に1日8時間,月に20日間従事している.即ち,彼の労働時間は月に160時間,月給は32万円である.彼は題目を唱えることに熱心であり,仕事のある日には1日に2時間,休日には1日に5時間の題目を唱えているとする.即ち,彼の題目時間は月に90時間に及ぶ.ひと月を30日とすれば,彼の時間賦存量は月に720時間であり,そこから労働量および題目量を差し引いた残りの余暇は月に470時間となる.

上記を踏まえて,本モデルにおける彼の内生変数について, L =160, a = 90とすれば,FOCより

 \eta (a) = \frac{a}{L} \approx 0.56

となる.したがって,本モデルを正しいとするならば,彼の主観的な賃金の題目弾力性はおよそ0.56であり,彼は彼の1%の題目量,つまり月に54分間の題目量の増加が,彼の月給をおよそ1,792円増加させると考えていることとなるだろう.

今回は,創価学会員の題目量がどのように決定されるかを数学的なモデルを構築することで考えた.本モデルから彼らが合理的であれば,彼らの題目量は彼らの考える賃金の題目弾力性と題目/労働比率が等しくなるように決定されることが明らかとなった.題目の効果を賃金率の上昇として捉える単純化は,労働市場にいくらか強い仮定を強いることとなるため,企業の利潤最大化行動と彼らの労働供給が如何様に調整されるかを明示的に考慮する必要があるだろう.また,実際に題目にどのような効果があるのかということは実証的に興味深い論題である.本モデルの限界をよく認識した上で,理論面・実証面での更なる発展を期待したい.

*1:wl, waは余暇と題目の機会費用を表す.

*2:題目量の増加に賃金率の上昇が伴わなければ,彼はより現実的な主観的賃金率関数を設定するだろう.本来ならば実際と主観の乖離を埋めるような調整過程を考慮する必要があるが,ここでは単純化のために捨象している.また,人的資本への投資活動が即座に賃金率の上昇として反映されるという想定は,労働市場に強い仮定を強いる.彼の努力投入と賃金率の関係性は,企業の利潤最大化行動との相互関係において成立するものであり,このような問題を取り扱うにあたって標準的にはプリンシパル・エージェントの問題を明示的に扱う契約理論の応用が適切かもしれない.ここではより題目時間決定の基礎的な枠組みを提供することに焦点を絞り,賃金率の決定に関しては今後の課題としたい.

*3:FOCの第1式ないしは第2式から \lambda \neq 0である

題目

前回のエントリ(内生的折伏決定理論)では,創価学会員の勧誘活動がどのような水準で決定されるかについて,数学モデルを構築することでその説明を試みた.モデルには,信者ごとの勧誘能力,彼らのもつ利他性,組織的な勧誘行動や友人の折伏拒否といった実際に考えられる勧誘活動の重要な要素が組み込まれている.勿論,動学的な分析など残された課題は多いが,彼らの宗教行動を説明するための基礎的な試みとして一定の意味があると考えたい.

題目

さて,今回は以前のエントリ(宗教活動)でも少し言及した勧誘活動以外の宗教活動,「題目」に焦点をあてたい.繰り返しになるが,「題目」とは「南無妙法蓮華」と唱えることである.「南無妙法蓮華」というワードの仏教的な意味についてここでは深く立ち入らないが,彼らはこの「題目」を唱えるという宗教活動を,最も重要でかつ基本的なものと位置づけている.

勧誘活動である「折伏」と比較すると,「題目」は他者との関わり合いが無くても成立するという点に特徴がある.無論,「同盟唱題」と名付けられる「題目」の開始・終了時間に取り決めを行い,同じ時間の異なる場所で「題目」を唱える形態や,宗教集会で大勢の信者とともに「題目」を唱えるといった形態も多々見受けられる.しかし,今回は信者個人における「題目」の行動原理に重きをおくことにして,「題目」における他者との相互関係については捨象して考えよう*1

彼らはなぜ「題目」を唱えるのだろうか?以前のエントリ(勧誘と入会 ver.2)でも触れたように,その答えは彼らが「題目」にメリットがあると考えるからに他ならない.では一体,その「題目」に由来する信仰メリットとは何なのであろうか?今後は当面,それを生産性・賃金率の上昇と単純化して捉えたい.宗教活動全体でみれば,宗教活動そのものから直接的に信仰のメリットを享受するということは考えやすい.例えば,勧誘活動ではその性質から多くの人間と関係することが不可欠であり,その相互関係そのものから満足感を得るということもあるだろう.しかし,ここで考える信者個人の「題目」活動は,「南無妙法蓮華」と唱え続ける反復活動でしかない.この反復活動中に自身の将来における行動計画を合理化し,それを彼らの生活に帰還するという過程が「わかりやすい」題目の信仰メリットだ.勿論,彼らはこの他にも「わかりにくい」題目のメリットを信じているかもしれないし,ここでそのことは否定されない.本エントリにおける重要な想定は,信者は「題目」活動そのものから満足感を得ることはなく,「題目」を唱える時間の増加が将来の生産性・賃金率の向上をもたらすという人的資本への投資のような性格をもつということである*2.この想定を踏まえた上で,次回は彼らにとっての最適な題目時間がどのようにして決定されるかについて数学的な表現を試みたい.

*1:信者間での時間的・空間的なルールを伴う「題目」行動は一種のモニタリングと考えられる.信者間の相互関係を明示的に扱った考察も興味深く,いずれ詳しく考えてみたい.

*2:「題目」そのものから満足感を得るということも考えられる.しかし同時に,長時間の「題目」は身体的な負担を伴うから,「題目」そのものが満足感を低めるという性質も考えられる.以上のことから,ここでの想定を「題目」そのものから直接的に得られるメリットとデメリットはちょうど相殺され,その間接的なメリットのみを取り扱う単純化であると考えても差し支えない.

広告を非表示にする

内生的折伏決定理論

これまで2回に亘って創価学会員の宗教活動および勧誘活動のメリット・デメリットを考えてきた(以下のエントリ).

今回はこれらを踏まえて,彼らの勧誘活動の程度がどのような水準で決定されるのかを数学的に表現してみたい.

数学的表現

宗教勧誘される人物Xの認識する信仰メリット・デメリットを表現した効用U^Xを,宗教勧誘を行う人物Yの勧誘活動の程度(以下,「折伏量」)aの関数として以下のように表現する.

 U^X(a)=\sum_{i=1}^{3}u^X_i(a)

但し,u_1(a)Xの認識する「わかりやすい」信仰メリット,u_2(a)Xの認識する「わかりにくい」信仰メリット,u_3(a)Xの認識する信仰デメリットを表す(これらの部分効用関数の性質は以前のエントリ「勧誘と入会 ver.2 - 徒然に.」と同様である.)

一方,YXへの折伏による効用U^Y折伏aの関数として以下のように表現する.

 U^Y(a)=\sum_{j=1}^{2}u^Y_j(a)

但し,部分効用関数u^Y_1(a)折伏によるYのメリット,u^Y_2(a)折伏によるYのデメリットである.また,これらの部分効用関数が定義域全体a \in [0, \infty )で二階微分可能であることを仮定し,

u^Y_1(a) \ge 0, u^Y_1(0)=0, \frac{du^Y_1}{da} \ge 0, \frac{d^2u^Y_1}{da^2} \le 0,

u^Y_2(a) \le 0, u^Y_2(0)=0, \frac{du^Y_2}{da} \le 0, \frac{d^2u^Y_2}{da^2} \le 0

を満たすものとする.上記, \frac{d^2u^Y_2}{da^2} \le 0Y折伏によるデメリットが折伏量の増加にともなって限界的に増加することを示しており,仕事や学業といった日常生活に支障が出てくるような折伏量の水準が存在するという制約であると考えて差し支えない.

もしU^Y(a) \le 0であれば,Yによって折伏は行われないので,a=0となり,U^X(0)=0Xは入会しない.したがって以下,U^Y(a) \gt 0の場合を考える.

Yが合理的であれば,Yの最適折伏a^*U^Y(a)が最大となる水準で決定されるはずである.即ち, \max U^Y(a)の一階の条件(FOC)は

 FOC:  \frac{dU^Y(a)}{da} = \frac{du^Y_1(a)}{da} + \frac{du^Y_2(a)}{da} = 0

であり,このFOCを満たすように最適折伏a^*が決定される.

Xはこのa^*を所与として,入会の如何を決定する.もしU^X(a^*) \gt 0であれば,Xは晴れて入会することになる.一方で、U^X(a^*) \le 0のとき,a^*Xの入会に必要な折伏 \bar{a}を下回っていると考えられ,Xは入会しない.ここで,Y折伏が実ることで追加的に\piという効用を得ることとしよう.このときYには以下の3つのオプションが考えられる.

  • オプションA:a^*から追加的に \Delta a折伏を行って \Delta uを失う代わりに,確率p_1 \piを得,確率1-p_1折伏は実らない.
  • オプションB:費用Cを支払うことで,他の信者Zに追加的な折伏を依頼し,確率p_2 \piを得,確率 1-p_2折伏は実らない.
  • オプションC:何もしない.

オプションAは,折伏が実ったときの効用 \piを得るために,最適折伏a^*以上に折伏を行うという選択肢である.オプションBはYの最適な折伏水準a^*では折伏が成就しないため,他の信者Zに費用Cだけ支払うことで,追加的な折伏を依頼する選択肢である.オプションCは,Yの最適折伏a^*では折伏が成就しなかったので,これ以上の折伏を諦める選択肢である.オプションA,Bの期待効用をそれぞれE_A, E_Bとすると,

 E_A = p_1 \pi + \Delta u,

 E_B = p_2 \pi - C

である.もしYが危険中立的で且つE_A \le 0, E_B \le 0ならば,YはオプションCを選択するであろう.もしYが危険中立的で且つE_A \gt 0またはE_B \gt 0ならば, E_A \ge E_B \rightarrowオプションAを, E_A \le E_B \rightarrowオプションBを選択するであろう.

ここでのp_1,p_2はそれぞれY,Z折伏の力を表していると考えられる.もし,Y折伏の力がZよりも大きいと考えられる場合は,YCを支払ってZ折伏を委託せず,自ら折伏の継続を選択する(オプションA)だろう.一方で,定数C組織の機能性を代理していると考えられる.もしYZと極めて密な関係にあればその委託費用Cは小さく,YZ折伏の協力を仰ぐ(オプションB).また,利得 \pi利他性を代表する効用とも考えられる.もしYが利他的でないのならば, \piの値はゼロであり,Yはこれ以上の折伏を投入しない(オプションC).もちろん,E_Aaに関する減少関数であり, a = a^*の時点でE_A(a^*+\Delta a) \gt E_Bであったとしても、折伏投入量 \hat{a} \in [a^*, \infty)において E_A(\hat{a}) \lt E_Bとなることも考えられる.つまり,最適折伏a^*からまずオプションBをとり,後にオプションCに切り替えるといったケースもありうる.

Yが最終的にオプションCを選択した場合,折伏の協力を承諾したZも上述のオプションに直面し,更に他の信者へ折伏の協力を依頼するかもしれない.この過程は,折伏aを大幅に増加させ,Xが入会を決定する折伏 \bar{a}の超過を確実なものとするようにみえる.しかし,もしXの効用U^X(a)折伏により一定の下限 \underline{U^X}を下回ると信者へのアクセスを絶ち,折伏が不可能となることを想定すれば,組織的な折伏活動が実を結ばない一つのケースを本モデルで説明可能となる.

以上のように今回は,信者による折伏量の決定を内生的に扱うことで,折伏による入会決定のメカニズムを説明した.本モデルでは,折伏の能力,組織的な折伏行動,信者の利他性および友人の折伏拒否という変数を明示的に扱うことが可能となっている.一方で,具体的な部分効用関数の形状や期待効用関数におけるリスク回避度,オプション選択の動学的かつ詳細な分析など未だ多くの課題が残されているのも事実である.折伏に関する考察についてはひとまず筆を休め,次回からは他の宗教活動について考えてみたい.

勧誘と入会 ver.2

※ 本記事は「勧誘と入会 - 徒然に.」に加筆・修正したものです.

---------------

これまで4回に亘って創価学会員の信仰理由について考えてきた(以下の4つのエントリ)

今回は以上のエントリを踏まえて,信者の宗教勧誘活動と入会決定の関係性について,1つの数学的表現を試みたい.

数学的表現

宗教勧誘をうける人物Xは,宗教勧誘を行う人物Yによる勧誘投入量 a \in [0, \infty )に応じて,Xが入会したときに期待される信仰メリット・デメリットの認識を深め,入会の判断を行うとする. Xの効用関数 U(a)を部分効用関数u_i(a),i=1,2,3の線形結合で表現できるものとし,以下のように表す.

U(a) = \sum_{i=1}^{3} u_i(a)

但し,u_1(a)Xの認識する「わかりやすい」信仰メリット,u_2(a)Xの認識する「わかりにくい」信仰メリット,u_3(a)Xの認識する信仰デメリットを表す(詳細は以前のエントリを参照).

認識される信仰メリットは負値をとらず,一方で認識される信仰デメリットは正の値をとらないものとする.また,勧誘活動が行われない場合,認識される信仰メリット・デメリットの値はゼロであることを仮定する.即ち,

u_1(a) \ge 0, u_2(a) \ge 0, u_3(a) \le 0, u_i(0) = 0, i =1,2,3

である.勧誘量に応じて信仰メリット・デメリットの認識が深まることを考えて,部分効用関数に単調性の条件を課す.

 \forall a, a^{'} \in [0, \infty), a \le a^{'} \rightarrow u_i(a) \le u_i(a^{'}), i=1,2 

 \forall a, a^{'} \in [0, \infty), a \le a^{'} \rightarrow u_3(a) \ge u_3(a^{'}) 

Xは信仰メリットの認識と同時にその論理を理解し,宗教活動の一定割合をそれ以外の活動で代替可能であると認識することを仮定する.このことは,信仰デメリットに含まれる信仰の機会費用が増加することを意味する.代替の程度を表すパラメータを  s \in [0, 1] ,認識される機会費用以外の信仰デメリットを  c(a) として,  u_3(a) を以下の様に表現する.

 u_3 (a) = c(a) - \sum_{i=1}^{2}s_iu_i (a)

但し,

c(a) \le 0, c(0) =0, \forall a, a^{'} \in [0, \infty) , a \ge a^{'} \rightarrow c(a) \le c(a^{'})

である.

いま,ある勧誘投入量 a^* \in (0, \infty)閾値として,Xがいわゆる信仰メリットの「過大評価」を行うことを考える.このとき,「わかりにくい」信仰メリット u_2(a)の増加が期待される.Xの「過大評価」の思考が確立される勧誘投入量 a^*はただ1つ存在するものとし,「過大評価」の程度を表現するパラメータを b(a) \in [1, \infty)として, u_2(a)を以下のように表す.

 u_2(a) = b(a)v(a),

 b(a) = 1 \ if \  a \in [0, a^{*}), b(a) = \alpha \in (1, \infty) \ if \ a \in [a^*, \infty),

v(a) \ge 0, v(0) = 0, \forall a, a^{'} \in [0, \infty), a \le a^{'} \rightarrow v(a) \le v(a^{'})

以上を踏まえて,U(a)を書き直すと,

U(a) = (1-s_1)u_1(a) + (1-s_2)b(a)v(a) + c(a)

である.

特定化と含意

簡単化のため,宗教以外の活動への代替可能性水準s_iは信仰メリットの「わかりやすさ」によらず等しいことを仮定し,

 s_1 = s_2 = s

とする.また,u_1(a), v(a), c(a)の関数形を以下のように特定化する.

 u_1(a) = 0.9\sqrt{a}, \ v(a) = 0.1\sqrt{a},  \ c(a) = -0.5\sqrt{a}

 a \in [0, a^{*})のときを考えると, b(a) = 1であるから,U(a)

 U(a)=(0.5-s)\sqrt{a}

となる.

 U(a) \gt 0 \rightarrow 信者となる

 U(a) \le 0 \rightarrow 信者とならない

であったから,

s \lt 0.5 \rightarrow 信者となる

s \ge 0.5 \rightarrow 信者とならない

である.このように,「過大評価」を行う思考が確立していない状況下( a \in [0, a^*))では,信仰の決定において宗教活動の差別化が決定的に重要である.

一方で, a \in [a^{*}, \infty)のときを考えると,U(a)

 U(a)=((1-s)\alpha-0.5)\sqrt{a}

となり,もしs \ge 0.5であったとしても \alphaが十分に大きければXは信者となる.したがって,s=1でない限りは「過大評価」を行う思考を確立すること,つまり,論理性の強くない信仰メリットを強く信じるような勧誘活動が極めて重要となってくる.

以上のように,今回は勧誘活動と入会決定の関係性について数学モデルを用いることでその含意を検討した.しかし,本モデルでは実際に Xへ投入される Yからの勧誘量がどのような水準で決定されるかはわからない.したがって,信者が自身の宗教活動の程度をどのように決めるかのメカニズムを明らかにする必要がある.このことを踏まえて,次回からは,創価学会員の宗教活動とは何なのかについて考えたい.

広告を非表示にする

宗教勧誘の損得

前回のエントリ(宗教活動 - 徒然に.)では,彼らの主要な宗教活動とは何かを確認した.今回はその中で特に勧誘活動のメリット・デメリットについて考えたい.

勧誘と対話

彼らは何故勧誘をするのだろうか.今までの考え方をそのまま適用すれば,勧誘活動のメリットがそのデメリットを上回れば彼らは勧誘活動を行うだろう.勧誘活動の程度も,彼らにとってのメリットからデメリットを差し引いた水準が最も大きくなるところで決まってくるはずだ.

では,勧誘活動のメリットやデメリットとは具体的に何を指しているのだろうか.わかりやすいのは交友に関係するメリットである.彼らは「仏法対話」と称する話し合いを通じて勧誘活動を進める.「対話」では極めて私的で神経質な内容にまで踏み込むこともあり,その過程から交友関係が深まる余地はあるだろう.このことからいわゆる人脈の恩恵を受ける日がくるかもしれない.しかし一方で通常,勧誘される側の立場からすれば得体の知れない宗教の勧誘をうけるという不快感から交友関係が破綻する可能性の方が大きいかもしれないし,これは1つのデメリットとなり得るだろう.

勧誘と利他

彼らが勧誘活動を行うに際して,もう1つの重要なキーワードは「利他性」だ.もし彼らが他人の幸福感に対して大いに敏感であるとするなら,ご利益のある信仰を他人に勧めない理由はない.また,もし彼らの望む世界平和や人類の幸福が高々数パーセントの人々の信仰では到底達成できず,反対に信者が多ければ多いほどその実現が近づくと考えているならば,彼らの熱心な勧誘活動にも頷ける.

勧誘と組織

勧誘活動は通常,一人では行わない.信者間で連携をとり,状況に応じて組織的に取り組まれる.したがって,勧誘活動には相互扶助が欠かせない.自分一人の力では教義や信仰体験を十分に説明することができない場合,他の信者の助けを借りることは多々ある.組織的な活動は自身の直接的な勧誘活動と関係のないものへの関与を余儀なくされる場合もあるだろう.そのため,その労力が勧誘活動に比例して生じるデメリットとなるかもしれない.もちろん,組織的活動を含め,すべての宗教活動にはご利益があるとされているので,熱心な信者は喜んでそれらの宗教活動に参加することだろう.

人間革命

ここで,「人間革命」について触れておきたい.その名の通り,信仰を通じて人間(個人)の性質が革命的に変化すること,というような認識で問題ないであろう.この変化が彼らへ信仰のメリットをもたらす核心である.

上述のように,勧誘活動に限って言えば,他者との真剣で密な関わり合いが不可避であるから,その交流の過程で彼ら自身の幸福感に対する考えや行動が劇的に変化することは十分に考えられる.この任意の事象に対する「選好」の変化が彼らにとって好ましい方向に作用することを彼らは「人間革命」とよんでいるのである.

今回は勧誘活動のメリット・デメリットについていくつかの例をあげて記した.次回はこれらを整理しつつ,彼らの勧誘活動の程度がどのように決定するかについて考えたい.

広告を非表示にする